若宮大路のパタゴニア鎌倉店が主催し、社会に真摯な眼を向けて活動するゲストを招いて行われるトークショー、「SPEAKER SERIES」。金曜日の夜に行われた今回のセッションは、無農薬の野菜を生産し販売する三浦市の「たかいく農園」を経営する高梨清さんと英子さんのご夫婦が登場した。
6年前まで農業と無縁の都市生活者であった英子さんが、清さんと結婚して、おいしい野菜とは何か、現在の農業経済を動かしているものは何か、農作業と経営に奮闘する日々から、「見える世界が変わってきた」と劇的な価値観の変化を経験し、見えてきた本質を語った。
英子さんは、二人の子どもを完全母乳で育てた経験から天啓を受けて、「植物も人間も同じメカニズムで生命を維持している」と理解する。自分に必要な栄養を吸収し成長する力を本来持っている野菜自身を活かし、生きる力を強くするために手をかけることが大事。対症療法では決して解決しない。それがおいしい野菜を作る本質だ。どう育っても、どう時間がたっても、自らの意志によって野菜自身が選択してきた道を認めてあげ、決して否定しないこと。子育てと同じだ。「何をするかよりも、眼をかけることが重要です」と清さんもうなずく。
「味でも鮮度でもなく外見」という現在の野菜の市場価値を決定しているメカニズムに反する道を選択したご夫婦の表情は明るい。経済的には苦しい現状だが、「健康をお金に換算することはできない」ときっぱり。「野菜作ってるから、とりあえず飢えないし」と腹が決まっている。「豊かな野菜をつくるためには、精神が豊かでなければ、そのためには、楽しくなくちゃ」と英子さんは屈託なく笑う。