気がつくと美術館の展示物とは違うものを被写体に選んでいたので、美術館の雰囲気を正しく伝えていないかも知れない。失礼とは自覚しつつ、写真を続ける。
すると、昔、講堂として使われていた教室からピアノの音が流れてきた。
行ってみると、今回、とてもお世話になった学芸員のAさん。
童話作家で画家の田島征三さんが、大地の芸術祭の参加作品として、廃校になっていた真田小学校を利用し、鉢集落の人々や、各地から集合したボランティアの方々の協力を得て、廃校時に三人いた児童が学校で出会うお化けとのお話を、全校舎を使った空間童話として創作したのがこの美術館。作品がぶら下がった講堂にあるピアノを弾いている。
しばらくすると、彼女が歌い出した。自分で作詞し、作曲した美しい曲を、澄んだ声で講堂に響かせる。思いがけない歌声に耳をすませたわれわれは、しばらく身じろぎもできなかった。歌い終わった彼女の表情に気がついて、拍手をする。一人は涙ぐみ、「よかった」と言いに彼女の前に進んで寄り添う。