文人都市鎌倉の伝統を残す古本屋の一つ、小町通りの「木犀堂」に寄った。ご主人の知性と美意識によって統一された空間の中で、見事に本たち一つ一つが声を放っている。世界に唯一の画風を持った大好きな画家、風間完のエッセイ集「画家の引出し」の初版本を見つけて購入し、店頭に回ると、額に収められたその風間完の小さな銅版画が陳列されていた。女性の肖像画とパリの風景画と一緒に、生前の画家から直接頒けてもらったそうだ。
「珍しいでしょ」とご主人。
「ええ、鉛筆に彩色の絵が多いのに、銅版画は初めて見ました」
「ユーモアがあって」
「これだけシンプルで、写実から離れた絵は見たことがないです」
(RICOH GR DIGITAL 2)
上の写真の手前、芹沢銈介の本の右隣。哲人のような顔をした人物の上に、烏が乗って騒いでいる。人物は冷静。烏は空に向かって鳴き声を放つ。このサインを見ると、風間完の作品であると思われる。