昨日は一人旅の興奮とその反作用の緊張の蓄積からか、疲れて泥のように眠った。
起きてヘルシンキのことを思い出している。
九年前にフィンランドのデザインを紹介するイベントで東京を訪れたヴオッコ・エマコリン‐ヌルメスニエミ。マリメッコのテキスタイルとファッションの基礎を築いたデザイナーの一人だ。取材で彼女をインタビューし、ポートレートを撮影した。
「その写真、送ってね」と彼女に言われ「はい」と気軽に応じて、そのまま送れないでいた。その約束を果たすべく、ヘルシンキの市内近郊にあるマリメッコの本社を訪ね、受付の女性にその経緯を説明して、プリントしたポートレートの写真を託した。
偶然、受付の女性はヴオッコの友人で、「今でもよく会っている、ここから五キロのところに住んでいる、元気よ」と言い、「間違いなく渡すわ」と大きな眼を開いて約束した。ヴオッコは現在は89歳になっているはずだ。
安心して、「ありがとう」と踵を返すと「待って」と彼女に呼び止められて振り向いた。
受付の後ろにある大きな白い棚の扉を開いて本を取り出すと、「これ持ってって」と彼女。「marimekko in Patterns」とタイトルのある大きな本だった。「ありがとう」と彼女と固く握手する。自分が写真を運んだ行為を認めてくれたのだろう。
今、開いている。英語で書かれたマリメッコの歴史、目指すデザインの本質、制作の過程、デザイナーたちの紹介と、マリメッコを総括するような本だった。